荻悦子詩集「樫の火」より～「紫」
紫
自転車を折りたたんだ 人に伝えたいことを思いながら 短い旋律が湧いてきた 丸く膨らんだ花 初めは冴えた紫だった 薊の花に水を注ぐ 注がない ここでわたしが何をしないでも 鮮やかな紫は目くらましだった 空が黄ばんだ灰色に変わった 薊を買ったのはあなたが住む町 地下街をもの憂く歩いていて 太い雨がやってきた 重い速い雨の音があらゆるものを叩く 長い棘だけがぴりぴり光る |
| 荻悦子（おぎ・えつこ） 1948年、新宮市熊野川町生まれ。東京女子大学文理学部史学科卒業。お茶の水女子大学大学院人文科学研究科修士課程修了。作品集に『時の娘』（七月堂／1983年）、『前夜祭』（林道舎／1986年）、『迷彩』（花神社／1990年）、『流体』（思潮社／1997年）、『影と水音』（思潮社／2012年）、横浜詩人会賞選考委員（2012年、16年）、現在、日本現代詩人会、日本詩人クラブ、横浜詩人会会員。三田文学会会員。神奈川県在住。 |
