2019年5月1日 / 最終更新日時 : 2019年5月1日 Nishi 荻 悦子 詩~「空・五月」 空・五月 野鳥が ピシピシ 鳴きながら 空の端を綴じて行く 目の粗い布 漉されるというより 自ら迸り出る 果汁 朝の音 松の木の 新しい銀の花穂 幹から枝へ 絡みついた蔦にも 柔らかな若葉が重な […]
2019年3月28日 / 最終更新日時 : 2019年3月28日 Nishi 荻 悦子 荻悦子詩集「樫の火」より~「往還」 往還 気づかないふりをするのに 疲れた いや 飽きてしまった 不意打ちに会い (そうだったのか) 隠されていたことを (とうに気づいてはいたが) いまはっきりと受け止める アスファルトの広い道 交差点の中央が急に盛り上が […]
2019年3月22日 / 最終更新日時 : 2019年3月22日 Nishi 荻 悦子 荻悦子詩集「樫の火」より~「徴」 文芸館では、これまで、荻悦子さんの詩集「流体」に収められた詩を紹介してきました。今後は、年に出版された詩集「樫の火」(思潮社)に収録された作品を順次紹介していきたいと思います。 徴(しるし) &n […]
2019年3月16日 / 最終更新日時 : 2019年3月16日 Nishi 荻 悦子 詩~「タスマニア」 タスマニア コーティングされた紙の表面が照り タ ス マ ニ ア 零 時 至急返事をお送り下さい しゅわっと浮いて吐き出 されながら 床に届く前に 不均衡に巻き上がる こち ら 何時であっても 自在では […]
2019年3月10日 / 最終更新日時 : 2019年3月10日 Nishi 荻 悦子 詩~「砂の数行」 左の耳の下に左腕を敷いた姿勢で目覚める 玉砂利の岸 に打ち上げられている ひりひりする痛さ ここはあな たが書き始める言葉のありかだと感じる わたしはあな たのペンの先からにじむ黒い雫 紙に落ち たゆたい やがて揺れ動く […]
2019年3月4日 / 最終更新日時 : 2019年3月4日 Nishi 荻 悦子 詩~「痕跡」 痕跡 こがれる こがれる巻き貝の眠り 自ら紡いだ石灰質の 螺旋のままに 身を沈めていく 底の尖った窪みの一点 まで しゅるしゅる回転する身体 轤に回る陶土のよう に 脹らみ細まり やむことのない変幻 沈んで行く 埋まって […]
2019年2月26日 / 最終更新日時 : 2019年2月26日 Nishi 荻 悦子 詩~「蜂」 蜂 書物を広げ 語りかける老人の背後に 丘に向かう石段がある 不揃いな自然の石を集めて 傾斜はゆるい 青い花を咲かせた釣鐘草が 細長い茎を捩じるように揺れ 大きな蜂が二匹 波のように交互にやって来ると 淡い […]
2019年2月20日 / 最終更新日時 : 2019年2月20日 Nishi 荻 悦子 詩~「星群」 星群 シンバル わわっと背を揺すられる その後ろで ヒューと 花火のように 高く昇っていく音 ペルセウス座流星群が見えるかもしれない 明かりは消してある ベランダの天井が仄白い そこに 柱の影が折れて二本 […]
2019年2月14日 / 最終更新日時 : 2019年2月14日 Nishi 荻 悦子 詩~「薔薇の谷」 薔薇の谷 ひそかに 父の椅子を外して 始まった秋 大きな実がはじけ 鳥が群がる あらゆる方角で 歓声ばかりが大きく 熟れすぎてか 熟れないままでか 実はみずから あらわに皮を剥ぐ どこから取りつくにして […]
2019年2月8日 / 最終更新日時 : 2019年2月8日 Nishi 荻 悦子 詩~「残響」 残響 投げられた マンドリン 波うち際 胴の中を走る 微量の砂 波のざわめきを割って ゆれあがる残響 硬く厚く 明け方 壁の海図に 亀裂を走らせる いくつもの半島 横たわる湾 砂丘をなぞり 汀をなぞり 見知らない海鳥の影 […]
2019年2月2日 / 最終更新日時 : 2019年2月2日 Nishi 荻 悦子 詩~「流体」 流体 なぜ馬なのか それも白い 疾走する肢体が 薄明のなか 青ざめて見える 濡れた砂に 私が残した旋律 わたしの歌はやがて乾き 砂はうねって丘をつくった だが やさしい稜線 などと なぜ感じるのか 大きく揺れあがる馬の背 […]
2019年1月27日 / 最終更新日時 : 2019年1月27日 Nishi 荻 悦子 詩~「視線」 視線 雲の岸辺で 見開かれている目 その強い視線 白い鋭い光 ぐっとこちらを射ると 光は瞳の外に 花びらのように弾け散り 目の輪郭は見えなくなる 見えない 捉えられない 熱 こちらを射る一瞬 白く燃える光 […]
2018年11月10日 / 最終更新日時 : 2018年11月10日 Nishi 荻 悦子 荒れ地のアーモンド~詩集「流体」より 荒地のアーモンド 明け方 荒れ地を伝って来た風が 木枠の窓を揺すった 光の筋が裂かれ 壁の上で目まぐるしく踊る この風がアーモンドを落とすだろう だが その音は聞こえず 男の歌声をかすかに聞いた 呟くように息を継ぎ タン […]
2018年11月3日 / 最終更新日時 : 2018年11月3日 Nishi 荻 悦子 雨の午後のレッスン~荻悦子詩集「流体」より 雨の午後のレッスン 青年の方に首を巡らせ 自分の胸の辺りから 滞った空気を掬いあげるような目つきをして ピアニストが 曲の解釈を述べ立てている その根拠のほとんどは 同じ主題を扱った画家の絵や 言葉で書かれた書物に負って […]