こうちゃんの想い出2~こうちゃん我が家に来る
その時まで私は、特別犬が好きということはありませんでした。小さい頃、 祖母がエスという名前の犬を飼っていたのは覚えていますが特に可愛がったという記憶もなく、好きでも嫌いでもない言わばニュートラルという状態でした。
妻は、実家で犬を飼っていたそうで、かなりの犬好きであることは、 近所の散歩中の犬たちを見かけたときやTV番組への反応でよくわ かります。何年か育てた経験があるので我が家では犬についての知識は最も詳しいです。
そんな我が家にある日、こうちゃんが段ボール箱に入れられてタクシーでやって来ました。2005年秋のことで、生まれて3ヶ月と少しくらいの時でした。 娘たちにどうしても飼いたいとせがまれた結果のことです。 世話の大変さをよく知っている妻は最後まで反対していましたが、 娘たちに自分で世話することを約束させて折れたのでした。 結局は元来自分も犬好きなことが断りきれなかった理由だと思います。
当時は娘たちも一緒に住んでいたのですが、何せ会社勤めの身なので毎日の散歩もそうはできません。朝早くと夕方の一日二度の散歩は結局妻の仕事になってしまいました。朝早く起きてこうちゃんの散歩を済ませたあと、3人の朝食の支度、掃除洗濯とこれまでの仕事にもうひとつ重要な仕事が増えても文句も言わずこなしてくれました。
そして、妻は犬の性向や世話の仕方を教え、娘たちと私はそれに応えるように少しずつながら知識を蓄えて行きました。そんなわけで、こうちゃんの毎日の散歩は、ウィークデイは妻がやり、土日の休みには、娘たちと私が担当するという暗黙のルールができました。そして会社が休みの日には全員で出かけて楽しく遊んだのは言うまでもありません。
妻は、大変だったはずですがよく世話を続けてくれました。物言わぬ動物を守ることが先決であるという基本的なことを十分理解しているからこそできることでした。二人で世話をするからと約束したにも関わらず娘たちは仕事の忙しさにかまけて結局は妻に任せる形になってしまいました。一方、私の仕事の忙しさは相変わらずでそれどころではありませんでした。
こうちゃんが我が家にやって来てから暫くは、気持ちの上でまだ>傍観者であった私ですが、愛くるしい姿を毎日見ているうちに少しづつ気持ちが移り、やがて大きな癒しを感じ始めるようになっていきました。飼い始めて間もないころ、「実はパパが一番はまってしまったりして!」と娘たちが言っていたのが本当にそうなり始めていました。
やがて私の退職をきっかけにして新しいルールができ、散歩のプログラムが変りました。ウィークディは私が担当し、土日の休みには妻と娘たちが散歩をすることになりました。このルールは娘たちが家を出てからも続きました。そして、基本的に二人となった我が家ではこうちゃんの存在がより大きいものになっていきました。
もちろん、二人のうちどちらかが体調を崩した時などは娘たちが交代で助けに来てくれました。久しぶりに娘たちがやって来ると、こうちゃんは「うー!」と喜びの声を上げ、耳を塞ぐようにして嬉しさを目いっぱい表現していました。まるで、「どうしてもっといっぱい会いに来てくれないの?」と言っているようでした。
このようにして16年が過ぎていったのですが、4人と一匹は心でしっかりと繋がっていたと思います。
西 敏