十男の父「星影のワルツ」

亡父の唯一の持ち歌は「星影のワルツ」だった。家族は下手なこぶしをきかされた。だが晩年は時々歌う目から涙が出始めた。ボクは「老人特有の涙目症状だろう」と思っていた。

父が10歳時に両親が離婚した。実母は実家に帰り、ほどなく夭逝した。長男である父と2歳下の弟が遺された。まもなく家には新しい母がきた。二人の下に弟妹4人が生まれた。

「別れることはつらいけどしかたがないんだ。きみのため」
「一緒になれる倖せを 二人で夢みた ほほえんだ」―――

この歌は父にとって恋人を想う歌ではなかったのかもしれない。幼い弟と二人 昔日の実母への強い思慕と孤独の夜に思いを馳せ、あの涙目になったのかもしれない。

26年前の7月7日、父は86歳で旅立った。若くして星になった実母の前でこの歌を歌っていることと思う、笑顔で。――七夕が近づくたびにそう思う。

※作詞 白鳥園枝 作曲 遠藤実 カット写真はfree画像から。

吉原和文

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