がんを考える6~自分の手術

2016年6月下旬、妻が退院し自宅療養することになりました。入院中、病院食に不満を言っていた妻に、退院祝いということでご馳走しようと言うと迷わずお寿司がいいと言いました。退院当日、帰宅途中にある寿司屋で久しぶりに美味しそうに寿司をつまむ妻を見て少しほっとしました。これで、自分も心置きなく手術を受けられると・・・。

退院して3日ほどは問題なく過ごした妻でしたが、4、5日後くらいから食欲がなくなり睡眠不足が続くようになりました。退院後6日目に今度は私自身の入院を控えており、その不安から体調を崩したことが後になってわかりましたが、その時は手術がうまくいかなかったのかと心配になりました。結局、私自身の手術当日も妻は体調が回復せず、代わりに長女が手術に立ち会うことになりました。

手術の前日入院のため病院に行くと、1階の受付窓口ロビーには相変わらず100人近い人が押し寄せており、改めてがん患者の多さに驚きました。普通の病院なら、いろいろな病気の人がいるんだなと思うところですが、がん専門病院なので今ここにいる全員が、がん患者とその家族なのだと思うと背筋が寒くなる思いでした。がんと闘っている人がこんなに大勢いるんだ、めげるわけにはいかないと思いました。

病院の一階フロアには、コンビニやレストラン、カフェなどもあり入院中は特に不便を感じることはなさそうです。また、1、2階の待ち合いにはボランティアの図書も置いてあり、退屈しのぎにはありがたくさっそく1冊借りることにしました。ネット環境はというと、病室にPCやスマホを持ちこんでもよく電話以外のメールなど利用はOKだ。(電話は特別のスペースあり)ただし、Wi-Fi設備はないのでスマホのテザリング機能を使うことにしましたが、1階のカフェでは無料のWi-Fiが利用可能でした。

入院すると検査や治療以外にすることがないので時間がたっぷりあります。ウェブサイトなどの運営にはもってこいの環境なので、「新宮ネット」の維持管理に全力を注げると思いました。そう、この時はもう考え方が前向きになっていました。ただ、最悪、私が「新宮ネット」を続けられなくなった場合のことも考えて、一部の協力スタッフには事前に対処をお願いしておきました。

翌日、午前中に手術が終わり麻酔から目が覚めると、ベッドのそばで娘が見守ってくれていました。手術は予定通り終わったけれど、何故だか、一カ月半後にもう一度手術をすると聞かされました。この時は、腫瘍が完全には取れず、残した分を再度取り除く手術をするのかと疑念を抱きました。後の執刀医の説明では、「この種手術では、完全を期するために二度手術するのが王道です。別に一回目に取り残したという訳ではないので誤解のなきよう」とのことでした。

手術当日は食事ができず一日中点滴でした。一夜明けて翌朝に点滴が終わるともう通常通りの食事ができました。このことは、素人考えながら、今回の自分の手術は比較的簡単な手術で症状も深刻なものではないのだろうと勝手に思いました。妻の場合とは違って、お腹に手術のための穴を開けていないので回復が早いのです。その後尿道のチューブが完全に取れるまでには3日ほどかかりましたが、手術当日も少しパソコンを開きました。2日目からはパソコンを抱えて面談テーブルや喫茶など病院中を歩きまわっていました。

実は、新宮市丹鶴小学校跡地で発見された歴史遺構についての投稿を初めて頂いたのは手術の当日でした。「この大変な時期にこんな重要な投稿があるなんて!」と少し焦る気持ちになりかけましたが、上記のように手術を受けたその日の午後にはメールすることもできたので、投稿者への対応もできてサイト運営に影響することは一切ありませんでした。

6日目の退院当日の朝、いつも通り早めに起きて洗面と着替えをすませると看護師さんがやってきて最後の検温をしてくれました。続いて入院中最後の朝食が運ばれてきたので完食して食器を廊下に戻すと、いつも通り、返却順位第一位でした。もうチューブは取れているのでポールを引っ張らなくてもよいので歩くのも楽でした。

今日は日曜日なので、普段ならスタッフが大勢いるナースセンターも静かでした。一人二人とお礼の言葉をかけて一階ロビーに降りると、フロアは照明を落としておりシーンと静まりかえり、昨日までの混みようが嘘のようでした。退院後の注意など打ち合わせはすべて昨日のうちに済ませていたし、支払いも自動精算機ではなく後日請求書が送られてくるのであとは家に帰るだけです。

妻は、自宅療養をしていて外出ができない状態なので、もちろん迎えもありません。玄関出入り口は締まっているので守衛室横の非常口から一人外に出ると、夏にはまだ早いのに6月の太陽がまぶしくコンクリートを照らして思わず目を閉じるほどでした。さあ、家に帰って、これからは妻の看病をしっかりやらなければと決意を新たにしました。久しぶりに見る空の色を異常に碧く感じつつ、少し大きめのかばんを肩にかけて一路帰宅の途についたのでした。

~つづく~

蓬城 新

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