シンゴ旅日記インド編(97)ワテは運転手 携帯置忘れの巻

ワテは運転手でんねん。社長さんは日本人ですわ。ちょっとボケというか、物忘れが多い人ですわ。

何でかちゅうとね、しょっちゅうやないけど、アパートの鍵は忘れる、ガスコンロの火を止めたか心配や、バンガロールの空港でインターネットのモデムを置き忘れる、海外行くのにパスポートは忘れる、それに、この前なんか携帯をコチ空港の充電台の上に忘れてプネに戻って来はったんでっせ。

その日は日曜日やったけど、ワテお迎えに行ったんですわ。

そんで、いつものように空港の外で社長さんから電話があるんを待ってたんですわ。

プネの空港な、ビルの側に車を止めることができんのですわ。

ちょっと止まるだけで、すぐに警備ちゅうか軍人さんみたいな人が来て、早う車を動かせーて、うるさいんですわ。

そやから、いったん空港を出て、また入ってと、ぐるぐる回ったりすることもありますんや。

そやけど到着時間がとっくに過ぎても、社長さんからの電話がおませんのや。

そんで、こっちから電話したら、なかなか出んのですわ。

何回かかけ直していると『誰や、お前は』ちゅう声が聞こえましたんや。

びっくりですわ。てっきり社長さんが、ちょっと荷物が出てくるのが遅れてるとか、今着いたとこやちゅうて言わはるかと思てたのに、『誰や、お前は』ですわ。

そんで、その電話の主にその携帯は私のボスのものですちゅうて、話をし出すと、どうも携帯がコチの空港の充電台に置いてあったらしゅうて、電話に出た人は空港の人やったみたいですわ。

そんで、その人は社長さんが乗らはった飛行機会社SpiceJetの人から連絡があって、待合室の携帯充電台に電話の忘れもんがあったんで、それを今さっき預かっておるちゅう話でしたわ。

社長さん、また、やりはったなって思いましたんや。

それで、社長さんは携帯がないもんで電話してこんのやわと思(おも)たんですわ。

そやから、車を空港の外の駐車場に入れて、到着出迎えのところにいきましたんや。

そうして待っておったら、社長さんが荷物転がして出てきはりましたわ。

すまん、すまん、携帯をコチの空港に忘れたって言わはるんですわ。

そんで、荷物を持ってあげて、駐車場まで歩いて行って、車に乗ったら、それからは、社長さんのおしゃべりですわ。ワテからいかにワテが心配しておったちゅう話をする間がおませでしたんや。

 

社長さんな、コチの空港で搭乗券をもらった時に、まず、こりゃアカンと思いなはったらしいですわ。

座席番号が13Aやったんやて。

社長さんな、コチへは本社の人と一緒に行かはったんですわ。その人はチェンナイに戻るんやけど、コチ空港を飛び立つ時間がほとんど一緒やったから、ホテルから空港へ一緒に行ったんですって。

そしたら、その人はエンジニアでパソコン以外にもなんやかんや電子機器をいっぱいカバンに詰めてはったんやて。

それに、その人はタバコを吸う人で、背広の内ポケットにライターを一個内緒で入れて置いたんやて。

インドではライター一個でも、飛行機への持ち込み禁止なんを、その人は知っておったんやけど、まあ見つかってもライター一個やて、思ってたそうですわ。

そんで、社長さんがボディ・チェックを先に済ませて近くで待っておったら、その本社の人は、ライターは見つかって取り上げられるわ、カバンは全部ひっくり返して中身をまたX線の機械にいれらるわで、検査が終わるのに時間が掛かりそうやったちゅうんですわ。

そんで、社長さんな、待合室に先に入って、ぐるぐる歩いて見とったら、携帯の充電台があって、線が何本も出てたんを見て、自分の携帯のバッテリーの残りが少ないことが気になっていたんで、携帯にピンを差し込んで台の上に置いたらしいですわ。

そうしたら、本社の人が検査を終えて待合室に来たんで、そのまんま、その人の側に行って、混んでる待合室で二人座れる席を探してコチの町はよかったなあって、話とったら、すぐに社長さんの乗るプネ行きの搭乗案内があったんで、ゲートに向かって飛行機に乗ったんやて。

13のAの席な、窓際やったけど、ちょうど窓のない席やったんやて。

社長さんな、これが13Aの縁起の悪いもんかって思ったんやて。

しゃあないから本を読んでいこうと思って、通路側に、まだ誰も座っておらへんかったんで、通路に出て、それ、あの、頭の上の棚、そうそう、オーバーヘッド・コンパートメントちゅうんですか、そこに入れたカバンから日本の文庫本を取り出して、本を読み始めたんやて。

そして、客がどんどん入って来て、通路側の座席に太った人が座ったんやて、真ん中の席は誰も座らんかったそうですわ。

そんで、社長さん、いつものように携帯のモードGENERALからFLIGHTに変えようと胸ポケット触っても携帯がなかったんで、あれっと思って足元に置いた肩かけカバンの中を見ても携帯がなかったんやて、おかしいなあ、携帯はチェックインする前に、運転手、ワテのことですわ、にかけたはずやし、X線の機械を通す時に携帯を肩かけカバンの中にいれたはずやし、あっ、そうや、充電台に置いたまんまやって思い出したんですって。

空港のゲートから飛行機までは歩いて来たし、まだ、タラップが掛かっておるし、出発まで10分以上もあるしと思うて、飛行機の入口まで行こうとしたんやて。

そんで、通路側に座ってた太った人に『すみません、すみません』ちゅうて通らせて貰おうとしたら、その人は一旦締めたシートベルトを手間取って外しながら『What Happened?』って聞かはったらしいですわ。そして、めんどくさそうに通路に立って、社長さんを通してくれたんやて。

社長さんな、入口まで狭い通路を急いで歩いて、タラップの上にいる3人の乗務員に携帯を空港に忘れた、行って取ってくるちゅうたんですって。

そしたら、もうアカン、行くことはできん、携帯のモデルは何や、色は何や、どこら辺に置いたんかちゅうて聞かれたそうですわ。

社長さんな、乗務員の人が取って来てくれると思ったんやて。

そして、席に戻りなさいって言われたんで、また狭い通路を歩いて13の列に行って、また13Cの太った人に、めんどくさそうに立ってもらって13Aの窓のない席に座ったんやて。

13Cの太った人が、社長さんにあんたは日本人か、どうしたんやと聞かれたんで、社長さんは、日本人です、携帯を空港に忘れましたって答えたそうですわ。そうしたら、その13Cの人は通路を挟んだ

13Dの奥さんみたいな人に、社長さんのことを説明してはったそうですわ。

そして、社長さんが、その13Cの人と話をすると、その人はデリーの人で、13のD・E・Fに座ってる家族の人たちとコチに三日間の休暇で来てたらしいですわ。

社長さんは、乗務員から何にも連絡がないし、タラップが外れかけたんで、心配そうな顔をしたら、13Cの人が頭の上の乗務員呼び出しのボタンを押してくれたんやて。

そしたら、CAが席にやって来たんで、社長さんが、私の携帯は見つかりましたかって聞いたら『We can’t find it.』 って言ったんやて。そんで、とうとう離陸やったそうですわ。

社長さんな、コチは初めてのところなんで、窓際に座って飛び立つ時にコチの景色を写真に取ろうと思てたのに、窓はあらへんし、大事な商売道具の携帯は忘れるわで、落ち込んでおったらしいですんや。

そんで、インドで携帯を失くしても出て来るのやろか、空港で失くしたから大丈夫やろか、けど、シンガポール時代に携帯を失くしたお友達が、一日経って携帯の紛失届けを出したけど、その一日の間に中近東かどこかに通話されておって、どえらい通話料を取られたことを思い出したり、いや、二時間でプネに着くさかい、そしたら、運転手、ワテのことですわ、に言うて、すぐにキャンセルすればエエのや、インドは同じ番号で再登録できるはずや、っていろいろ考えてはったらしいですわ。

 

そんで、ちょっとは落ち着いたら、ホテルから空港に来る間の車のなかで、本社からの出張者さんが、用意してくれて、全部飲んでもたペットボトルの水が効いて来て、おトイレに行きたくなったんやて。

そんで、おトイレに行こうと13Cの人を見たら、その人は顔を上に向けて、いびきをかいて寝てはったんやて。

社長さんな、その人を起こすのもなんやと思って、我慢しようと思いなはったらしいわ。

そやけど、飛び立って30分位経って、プネへは、まだ1時間半あるって思ったら我慢できんようになって、13Cの人に近づいて、そん人の肩を叩いて起こして、まだめんどくさそうに立ってもらって、トイレに行って用を済ましたんやて。

そんで、自分の席に戻ろうと思ったら、13Cの人はまた、ぐっすり寝込んではったんで、手ェーを伸ばして、13Bの席に置いてあったご自分の肩掛けカバンをとって、二つ前の空いてる席に座ったんやて。その間、13Cの席の人は寝たままやったそうですわ。

二つ前の列だけAからFまで席が空いてたそうですわ。

さあ、窓際に座って外の景色をと思ったら、背もたれのところにある折りたたみのテーブルが壊れておってガムテープで留めてあったそうですわ。

それに、外はもう雲の上の方を飛んでるんで、写真も撮れんので、11のB席に座って寝ていったそうですわ。

プネに降りるちゅう放送で目を覚まして、運転手が待っておるやろな、どうやって連絡しようか、それよりもSpiceJetの事務所が先やなと思いなが着陸するんを待ったんやて。

社長さんな、着陸してからの『携帯は空港ビルまでスイッチを入れないでください』ちゅう放送にちょっとさみしさを感じたんやて。そんで、周りで喧しく鳴る携帯の音にいらついたらしいですわ。

そんで皆と同じように席を立って、通路に並んで、通路をちょっと戻ってカバンをオーバー・ヘッド・コンパートメントから取り出した、降りるのをまったんやって。ドアが開いて、出口に向かうと、出発した時に携帯が見つかったかどうかを尋ねたCAがタラップの下のスタッフにどうしたらいいか聞いて下さいと言ったんやて。タラップの下では係りの人が搭乗券をチェックしてたんですわ。

社長さんらが乗らはったフライトはプネを経由してデリーまで行くさかいに、間違って降りる人がいないように搭乗券をチェックしてまんのやて。

社長さんな、そのタラップの下の人に携帯をコチ空港に忘れたんやけどちゅうと、その人は降りる人の搭乗券を確認しながら、『手荷物を受け取ってからSpiceJetの事務所に行って下さい』て言ったんやて。

社長さんな、一旦は荷物取り場に行ったんやけど、荷物が出てくるのが待てんさかいで、SpiceJetの空港内事務所に行ったんやて。

そしたら、係りの女性が親切に聞いてくれて、コチの空港に電話して確認するさかい、ちょっと待ってくださいって言われたんで、また荷物取り場に行って、カバンをとってSpiceJetの事務所に戻ってきて、返事を待ったんやて。結構、時間がかかったそうですわ。

その間に窓越しに、ワテが車の中で電話しているのが見えたそうですわ。

でも、声が届かんし、まどろっこしいなぁて思たんやて。

そやけど、空港内には駐車ができんから、ワテの車は外に出ていったそうですわ。

そのうちに、コチから乗った飛行機の乗務員の人たちも事務所に来て、なんや記帳して出て行ったりしたんやて。その中には携帯が見つかったどうか聞いたCAもいたんやて。

そんで社長さん、待っておったら、ハンドトーキーみたいな電話を持った男の掛かりの人が来て、あたたの電話が見つかりました。Authorization Letterを書いて下さいって言われたんやて。

何や、それは、って社長さんは思いなはったんやて。

そしたらその係りの人が真っ白なA4用紙を持って来て、ここに、コチ空港関係者様から始まって、私は空港に電話を置き忘れました、SpiceJetの係りのものに受け取りを委任します。携帯のモデルはノキア、色は黒って書いて名前を書いてサインをしたんやって。

そんで、明日のフライトでプネに到着すると思うから本人か代理の人が取りに来てくださいと言われたそうですわ。

そんで、やっと、ホットして出口に向かって急ぎ足で来て、外で待ってたワテと出会えてちゅう寸法ですわ。長い話ですわ。アパートに着くまでその話ばっかでしたわ。

ただ、途中で美味しいインド・ワイン買うちゅうてリッカーショップとタマゴが要るちゅうて、タマゴ屋に寄りましたけどね。

社長さんな、物忘れが多いもんで、ご自分で色々と対応策ちゅうのを考えてはるらしいでっせ。

社長さんな、ちょっと高血圧で、毎朝二錠づつ、お薬飲まなアカンらしいんでっせ。

そんでも、時々飲むのを忘れるんやて。

そやから錠剤の入った薄っぺらい入れもんの裏にマーカーで日にちを書いて、飲んだか、飲まんかったか調べてはるらしいですわ。

特に、出張に行った時や、飲みすぎた翌日は、薬を飲むのを忘れるちゅうことらしいですわ。

そういえば、前の社長さんも、玄関に『携帯、手帳、ハンカチ、財布、、』って書いた紙を玄関横に貼ってはりましたわ。

ワテでっか、物忘れなんかしませんで。けど、今朝、社長さんから『会社で飲むコーヒー用の砂糖を明日買って、朝持ってきますって言ったのに、なぜ買ってこなかったのですか』って聞かれましたわ。

ワテは、すんませんって小さな声で謝りましたけど、昨日の帰りがけは、買って来るつもりやってんでっせ。そやけと、そんなん、ワテはチャイしか飲まんし、会社に来てから買いに行けばエエと思ったし、急ぎのことやないと思ったんでっせ、えっ、これを物忘れちゅうんですか。

ちゃうとおもうけどなあ。無関心ちゅうやつやろか。

丹羽慎吾

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