手拭いの暖簾(5)蛍-I
公園も緑の木々も少ない大阪の町の中で私は生まれ育ちました。
昆虫や植物には縁の少ない子供時代でした。今ほど充実した動植物図鑑はなく名前は薄っぺらな図鑑で見付けて知るのでした。
そのような訳で蛍を見たのはつい10年余り前のことです。
8月も終わり頃に蓼科で「まだいるかも知れない!」と教えられて懐中電灯を持って車で走りました。せせらぎの小さな橋の上に停車。
暫くするほどにポッポッと丸く小判型のかなり大きな蛍が飛び始めました。何という名の蛍だったのでしょう?
人の顔も見えないほど真っ暗な闇の中にゆるやかに動き回る黄色い光はとても幻想的でした。
初めてのことにすっかり興奮し、大満足であったことを覚えています。数は多くなかったのは名残の蛍だったのでしょう。
2枚ペアに掛けていた手拭いの片方はハイキングに行くときの首にかける汗拭きが昇格して暖簾になっていました。
幾度もの洗濯に耐えかねて充分に役目を果して遂に破れました。
代わりを見つけなくては!
AZ