荻悦子詩集「時の娘」より「扉」
扉
でだしが肝心なのだ 三階からの声は「何」「誰」を繰り返した挙句 玄関ホールのゴムの樹の葉の埃 再びインターフォンに向かう 迎えに出たN夫人は隣の扉を指して言った 彼らは知らない その扉の内側で 女はさらに耳におさめた 床掃除に戻る女に扉一枚がかきたてるあらゆる妄想 |
荻悦子(おぎ・えつこ) 1948年、新宮市熊野川町生まれ。東京女子大学文理学部史学科卒業。お茶の水女子大学大学院人文科学研究科修士課程修了。作品集に『時の娘』(七月堂/1983年)、『前夜祭』(林道舎/1986年)、『迷彩』(花神社/1990年)、『流体』(思潮社/1997年)、『影と水音』(思潮社/2012年)、横浜詩人会賞選考委員(2012年、16年)、現在、日本現代詩人会、日本詩人クラブ、横浜詩人会会員。三田文学会会員。神奈川県在住。 |