野口英世最期の地アクラ訪問記(4)

2)コレブ病院 (Korle-Bu Teaching Hospital)

コレブ病院は、1926年、当時の英領ゴールドコーストに住む現地人のための病院として設立された。

写真3 衛生検査技師養成

設立時の名称は、ゴールドコースト病院であった。そこに、西アフリカとしては、最新の設備を誇る付属研究所が併設されたが、その中の実験室が英世のアクラにおける黄熱病の研究拠点となった。ここを提供してくれたのは、この研究所長であったウィリアム・A・ヤング博士である。ヤング博士は、病理学の権威であり、英世の研究に役に立つことを望んでいた。

英世が、実験室として使用していた部屋は、現在ガーナ厚生省の衛生検査技師養成所(School of Medical Laboratory Technology)の教室となっており、我々が訪れた時は、検査技師の研修中であった。その様子を見ると、英世の遺志が引き継がれているようで、胸が熱くなる思いであった。また、国立ガーナ大学医学部は、コレブ病院の敷地内にある。(ただし、国立ガーナ大学のメインキャンパスは、まったく別の場所にある)

写真4 顕微鏡の研修

この教室(英世の実験室)の奥には小部屋があり、英世はここに机を置き、書き物をしたり、標本の整理をしたり、あるいは、時には机にうつ伏せになって仮眠をとることもあった。いわば英世の書斎のような役割を果たしたこの小部屋は、その後物置のように荒れ果てていた。その様子に心を痛め、1987年にこの小部屋を英世に関する展示室にする運動を始められたのが、当時のガーナ日本人会会長の岩田さんである。

現在、展示されているものは、写真が中心で、顕微鏡も3台置いてあった。しかし、特に鍵をかけられているわけではないので、既に多くのものが散逸しており、この顕微鏡も英世が使ったものかどうかは定かではない。部屋の片隅に英世の遺体を解剖した時に黄熱病に感染し、英世の後を追うようにして亡くなったヤング博士を顕彰する大きな振り子時計が置いてある。しかし、痛みがひどく、説明されなければ、単なるガラクタのように見えてしまうのが残念であった。

写真5 野口英世の展示室

実験室の入り口ドアの横には、次のような言葉の書かれたレリーフが書けられている。“In memory of professor Hideyo Noguchi of Rockefeller Foundation who died in Accra on 21st of May 1928 of Yellowfever which he was investigating(黄熱病を研究中に1928年5月21日にアクラで亡くなったロックフェラー財団の野口英世教授を記念して)”

また、そのレリーフの横には、2006年5月2日に当時の小泉首相がここを訪問したことが記されている。この訪問が、2008年から授与されることになる「野口英世アフリカ賞」の創設につながっていく。

コレブ病院看護部の最高責任者グレース・バーンズ(Grace Barns)女史、医療部の最高責任者ベン・アナン(Ben R.D.T. Annan)博士と面談し、野口関係の資料がないか尋ねる。そして、彼らが名前をあげた“History of Western Medicine in Ghana, 1880-1960(1880-1960年ガーナにおける西洋医学の歴史)”(Stephen Addae著)を見せていただく。

この本を読むと、黄熱病は常に発生しているわけではなく、流行する年が限られていたことがわかる。具体的には、20件以上の発症例があったのは、1913, 1922, 1926, 1927, 1931, 1937, 1949, 1951年であり、かつて多くの犠牲者は白人であった。しかし、1926-27年には、アフリカ人の感染者が多く、アフリカ人が黄熱病に対する免疫を持っているとは言えなくなった。1928年の症例は、野口英世と、ヤング博士のみである。1888-1955年の間で最も深刻な感染は、1937年に起こり、この時は、ほとんどの患者がアフリカ人であった。つまり、アフリカ人で免疫を持つ者がぐっと減ったことがうかがえる。

コレブの実験室の向かい側には、野口英世博士の胸像が立つ、野口庭園がある。この胸像、および庭園設営の発起人は、1957(昭和32)年に赴任した初代駐ガーナ大使の大隈信幸さん(大隈重信の孫)である。完成は、2代目の中川大使の時代と言われている。胸像の作者は、彫刻家の田畑一さん。ただし、その後の野口庭園の保全状況はよくなく、日本大使館と日本人会により修復されることとなった。

(写真6 野口英世の胸像(左は筆者))

エッセイスト 齋藤英雄

野口英世最期の地アクラ訪問記(5)へ続く

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