新加坡回想録(2)多民族国家

私の記憶が正しければ、赴任当時のシンガポールの人口は約360万人、それに対して年間の外国人観光客数は約400万人でした。海外からの観光客数が人口より多いということを聞いたときは驚きました。現在の人口はというと約570万人(2017)で、外国人観光客数は約1,850万人(2018)ほどになっており人口の約3倍になっています。

シンガポールが日本と大きく違う点のひとつに多民族国家であるということがあります。当時たしか中国系が約75%、マレー系が約15%、インド系が約5%でしたが、この比率は現在でもあまり大きくは変わってないようです(中国系74%、マレー系13%、インド系9%、その他3%(2017年)。これらの民族がこの島へやってきて住みついた経緯については、前回の「シンガポールの歴史」のところで少しだけ書きました。

私が赴任した職場においても大体それくらいの比率で現地社員がいました。ただ、担当する仕事は大体決まっており、中国系の人が事務を、マレー系の人が社用車の運転手でした。ここで、日本人駐在員一人一人に社用車がつくなど、贅沢だと思うかもしれませんが、それには理由がありました。

日本人がシンガポールで働くためには、日本人一人に対して何人かの現地人を必ず採用しなければならないという規制がありました。我々が自分で運転してもよさそうなものですが、この決まりに従って現地人を雇う必要があったのです。私の部には、福建人の営業担当男子部員一人と秘書役の広東人女性、そして社用車の運転手としてマレー人の男性が付いてくれていました。大きな部になると日本人が3人もいるところもありましたが、原則として車は部ごとに1台でした。

もう一つの理由は、もし日本人が運転中に事故を起こした場合、罰則がどのようになるかわからないという恐れがあったからです。まだまだ発展途上国であったシンガポールでの法律によって、日本人が100%平等に裁きを受けられるかどうかわかりません。その意味では仕事中の運転は現地人に任せた方が無難であったのです。私についていてくれたマレー人の運転手との忘れられないエピソードがあるのですが、それはまた別の機会に書くことにします。

(西 敏)

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